聞仲は太公望の父である!

 

センセーショナルなタイトルをぶち上げてみましたが、もちろん生物学的な意味ではなく(問題発言)太公望にとって、聞仲は父のシンボルだったのではないか、という妄想です。

太公望にはきちんと父親がいます。そして回想や発言、桃源郷でのやりとりを見ても、両者の関係は良好だったことがうかがえます。幼くして亡くしてしまったとはいえ、太公望は父親から他に遜色がないほど様々なものを与えられたことでしょう。

ただ、幼くして死に別れてしまったがゆえに、得られなかった父親像があると思うんですよね。それは「越えていく対象としての父親」です。

 

私は一応女なので、男性心理はよくわからない、と前置きしたうえで。少なくとも封神において、男性にとっての父親は「越えなければならない存在」としての一面を持っていますよね。

一番顕著なのは天化。というより天化個人の物語というのは、ほぼ父親越えに尽きると言ってもいいくらいですし。武成王も、封神における父の象徴のようなキャラでした。

姫発も、先王・姫昌を越えねばなりませんでした。姫発はああいうキャラですから、天化のようにはたからわかるほど気負ったりはしていませんが、彼の場合は周囲からの期待や現実の要請もあったのですから、プレッシャーのほどは本来天化の比ではなかったはずです。

上の二人に比べると「父越え」の意味合いは薄いかもしれませんが、楊ぜんもやはり二人の父の存在を経て、大きく成長しました。太公望との出会いで大きく方向転換をした楊ぜんですが、結局最後に背中を押したのは玉鼎との死別であり、通天教主との対峙です。

 かように、封神において父親は男が成長を遂げるうえでキーとなる存在として描かれているのです。

 

師叔に話を戻すと、12歳で実父と死に別れた彼が実父に対して「越える対象」としての父親をはっきりと見出していたとはあまり思えません。そんな父親像を意識できる子供は、天化くらいのものです。「父親越え」を体験しないままの師叔にその機会をもたらしたのが、聞仲なのではないでしょうか。

殷も聞仲も老いたという太公望。それを夢想と切り捨てる聞仲。この新旧の価値観のぶつかり合いって、親子のやりとりみたいじゃありませんか?「俺はこんな夢を持ってるんだ!」「だからおまえは世間知らずだというんだ!」みたいな。太公望にとって聞仲は倒さなければならない敵ですが、立場を越えて敬意を抱いているのも明らかです。これは聞仲→太公望にも言えますよね。なにより、太公望自身が聞仲を「乗り越えねばならぬ」と言っているんですよね。「倒さねばならぬ」ではなくて。やっぱり太公望にとっての聞仲は、他の敵と違った意味合いを持っていたのではないでしょうか。

 

そんなわけで、太公望にとっての聞仲は、不完全だった父親像を補完する存在だったのではないかと思ったのです。殷の親は懐が深い。

 

Back