スタンドに立てられたソフトクリームは三色。白・茶・ピンク。
空に溶けてしまいそうな青色が、にっこりと笑いかけてくる。
またか、と楊ぜんはため息を吐きたい心境だった。エサの気配を感じるなり足元に集ってくる鳩まで鬱陶しく思えてくる。
「楊ぜん。どれがいい?」
「たまには師叔や普賢先輩から選んでくださいよ」
「そうだぞ、普賢。おぬしはこやつに甘い」
「望ちゃん。このアイス、誰が買って来たのかな?」
「・・・・楊ぜん。おぬしはわしらより年下ゆえ、先に選んでよいぞ」
「年下って、一つ違いじゃないですか」
「楊ぜん。早く選ばないと溶けちゃうよ」
「それじゃあお言葉に甘えて。・・・えっと」
楊ぜんは気乗り薄に答え、普賢の差し出すスタンドに手を伸ばす。その手は一瞬動きを止めたが、ストロベリーを選び取った。
「それじゃあ、僕はこれをいただきます」
「おぬし、ワンパターンだのう」
「そういう望ちゃんはどっちにするのさ」
「わしはチョコにきまっとろう」
嬉々として太公望はコーンを持ち上げる。既に円錐の頂上はてろりとお辞儀を始めていた。溶けて垂れかかった部分を器用に舐めて、太公望は満足げに笑った。
「何度食べてもうまいのう、この店は」
「望ちゃんだってワンパターンじゃない」
残ったバニラにスプーンを差しながら、普賢が同意を求めるように楊ぜんを見つめて首を軽く傾けた。楊ぜんは仕方なく曖昧な笑みを浮かべる。焦げそうな暑さも相まって、早くもこの場を逃れたくなってしまっている。やけくそのように淡いピンクのアイスを口に運ぶと口の中の温度が下がるが、甘みのせいで爽やかさはいくらか相殺されてしまうからますますげんなりする。元々楊ぜんはソフトクリームがやけに似合う連れ二人ほど甘いものが好きではない。
この公園でソフトクリームを食べるのは、元々この幼馴染の間の習慣のひとつだった。そこに楊ぜんが加わるようになって、まだ1カ月ほどしか経っていない。楊ぜんとしては何もこの暑い中たった三種類しかメニューのない露店の常連になることもないように思えるのだが、さりとて別の場所を提案しようという気にもなれなかった。この二人のやることはとても息が合っていて、口を挟むことにどうしてもためらいを覚えてしまう。自分が殊勝な性格でないことは百も承知の楊ぜんだから、彼らの間には何か他人の割って入れない世界があるのだろうと考えていた。こうして一緒にいてもどこか二人の世界にお邪魔させてもらっているような気分を楊ぜんはいまだに拭えないままだ。
たとえばさっき選んだストロベリー味だ。この夏が訪れるまで、普賢が買ってくるアイスはバニラとチョコレートだった。バニラが普賢、チョコが太公望。この夏になって楊ぜんとストロベリーがプラスされたわけだが、それは楊ぜんとストロベリーという一組が増えただけのことだった。最初にこうしてアイスを食べた時に太公望がチョコを選ぶのを見てから、楊ぜんはストロベリーしか選ぶことができない。そんな楊ぜんに気がついた普賢は嫌がらせのように楊ぜんに選択権を与えるようになったけれど、やっぱり彼はストロベリーを食べ続けている。これでは二人の決まりが三人の決まりになっただけのことだ。
これは食べ物にまつわる他愛のない話の皮をまとっているが、本当はもっと根本的な問題を孕んでいるのではないかと楊ぜんは思わずにいられない。二人の関係に一人が加わって拡張されているという構図は、この真夏の太陽の下で甘ったるいアイスを食べている時だけではなく、僕らの関係自体にあてはまっているのではないのか。実際隣の二人も同じことを感じていて、その証拠に普賢先輩はこうして僕の行動を促しているじゃないか。
つまるところ、太公望にも普賢にも現状を積極的に変える意思はないのだ、と再確認して楊ぜんはため息をアイスと一緒に飲み込んだ。二人は暗に言っているのだ。この関係を引っ掻きまわしてみせろ、と。手を取り合っている二人がここにもしっかりと現れていて、楊ぜんは孤立感を深める。けれどもそれははっきりと不快だと言いきれるものでもなかった。ただ何かもどかしいような、それでいて挑戦心をくすぐられるような、不思議な感覚だ。
「ねえ、楊ぜん。ストロベリーがそんなに好き?」
「・・・・ええ、まあ」
「ワンパターンだからのう」
「そういう師叔だっていつもチョコじゃないですか」
「わしは昔からそうだぞ。のう、普賢」
勝ち誇ったような太公望に、楊ぜんは愛想笑いを浮かべる。
いつまでもこのままでいるものか、と心の中で呟きながら口にしたアイスはやはり彼の口にあわなかった。
fin
楊ぜんが普賢を苦手だとしたら、考えすぎてしまうからだと思います(笑)
[12/8/13]